都史考察

都史等について、気になったことの考察やメモ。文献調査に基づく個人的な意見ですので、特定の組織等の見解ではありません。

08 太田久行『小説都庁』を読んで

07に引き続き、太田久行の美濃部都政に関する著作を扱う。

太田久行『小説都庁』は、太田の自伝的小説である。美濃部都政末期を描くが、その様相を歴史小説家・童門冬二らしく、幕末風の例えで書いている。美濃部知事は、一橋知事(もちろん、一橋慶喜に由来)、都側にいながら敵陣営に寝返る参与を(勝海舟から)勝として、そしてその戦いは部分的に鳥羽・伏見の戦いにも例えられている。そのほか、松平や川路など幕末好きが読むと思い当たる名前が多い(私はたまたま、幕末好きだったので、大変面白く読めた)。

07で書かなかった財政再建が、本小説では深刻な問題となっている。財政局(財務局)と地方省(自治省)の戦いが描かれるが、一橋知事を再選させないために、わざと財政破綻を狙う背信者が都庁の中にも出てくる。

その一方で、企画局(政策室)の計画ラインの職員は、レイムダック化しつつある一橋都政末期において、「同人雑誌」などと揶揄されながらも、「これからの都政」を完成させる(おそらく美濃部都政末期に出された「低成長社会と都政」のこと)。

主人公の下坂局長は「革新都政」に殉じて辞職する。辞職を心に決めながら、最後にその都庁人生を振り返る。下坂は戦時下で少年飛行兵であった。区役所に入り、都庁の大幹部にまで上り詰めた、その原点を戦後、復員して東京駅に降り立ったその日に遡る。

さて、本書は一橋知事の見送りから始まるのだが、下坂の次に出てくる職員(下坂は退職しているので、最初の職員と言っても良いだろう)は、下坂の秘書をしていた、企画局の平岡主査である。この平岡主査は、果たして誰がモデルなのか、これまた都政史を語る上で外すことができない重要人物だが、ここでは、ご想像にお任せしたい。

(名前の由来は平岡円四郎だろうか。それほど、太田さんはこの人物を評価していたのだろう。二人の関係はよく知られるところである。)